「愛宕の松」にいってきました

「県内で一番下の蔵ですから」古川市の南に位置する三本木町にあるお蔵の若い蔵元さんの新澤さんがしゃべりはじめる。大学で醸造の勉強をし、さらに営業の経験をして帰ってきてから3年目。夢の実現と言えばカッコウよいが、実に泥臭い現実的な努力と苦労の話を続ける。ようやく飲んでもらえるお酒ができましたよと、お酒を利かせていただくことができた。本醸造の造りが違うものが2つ。MY酵母を使った純米が1つ、八反を使った大吟醸が1つ。そこには私が知っている愛宕の松とは違った、新しい愛宕の松があった。
「一人では酒は造れません」誠実で真面目な酒造り。今までの行程を見直し、杜氏さんをはじめ蔵人さんの協力を取りつけながら、自分の描くお酒を造っていく、そこが難しいとのこと。

写真は「釜」と「麹室」です。釜の左の部屋は杜氏さんが寝泊まりする部屋だそうです。
最盛期には1000石をつくっていたというお蔵は広い。だが現在では200石ほどで多くのタンクは使われていないのだとか。とにかく全てを考え直す、全ての普通だと思っていたことを見直す。そんな姿勢が感じられました。「いろいろな部品や石鹸をおく棚も自分で作ってテプラで仕分けしました」「やっぱり洗うにはタワシよりササラが一番です。ササラをきちんと使うとこのように短くなります。やっぱりできる人とできない人との違いはそんなところからあると思います。新しく人が来たらきちんと教えられるように」という若き蔵元、新澤さんの「物をつくる者」の基本姿勢に私もエンジニアのはしくれとして感激してしまった。

瓶詰め機と明日詰められる普通酒の入ったタンク。階段を登り柄の長い柄杓ですくって飲ませていただくとそこには去年と同様の懐かしい味があった。そうそう、これこれ。決して一般うけしないであろうことは確か。しかしこのタンクに詰っているのは「今まで」であって「これから」ではない。最初に利かせてもらったお酒、そこに「これから」があったと思う。

今回は今までの蔵めぐりにはなかった切なさを感じた。
雨漏りがするという建物、使われなくなって久しい機械・・
情熱だけではどうにもならない焦りや苛立ち・・。今までそんなお話まで聞かせていただけたお蔵さんはありませんでした。重い荷物を背負って向かい風に向かう。一人じゃできないことだけど、一人じゃないから難しい。「でも、手を抜くことを覚えるとクセになるから、やりたくありません」と蔵元さん。 きっと順風満帆ではつくれなかったお酒ができるはずです。

新澤さんの宝物は去年入れたという新しい瓶洗浄機と冷蔵庫(^_^)
その冷蔵庫の隣の窓ガラスに面白い落書きを見つけました。
「I'm PUNK!」そう、ロック魂がここにも流れているわけです。

「去年と今年ででは味が違います。これからも変わっていくわけで、どこで皆さんの前にお出しできるか難しいところです」ただ手ごたえは新澤さんだけではなく、杜氏さんや蔵人さんも感じていらっしゃるとのこと。
今回は普段は聞けないお話をうかがうことができ今までの蔵見学とはまったく違ったものになりました。お酒の美味しいとか美味しくないという話とは違った、もっと姿勢とか心構えとか根っこの部分に触れた感じでした。 情熱はどこにも負けていません。成果も出てきていると思います。杜氏さん、蔵人さん、新澤さんガンバレっ!  男としてしばらく前に忘れてしまっていた物を思い出させられたような、熱い気持ちになった一日でした。
# 愛宕の松はこれから要チェックですよ。え? 私? 私なんか去年から予言済ですよ(笑)
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