吾妻嶺酒造店

2/11、造りももう少しで終わりとは言えまだまだ忙しく気の抜けないこの時期、白石の丸秀酒店さんに引き連れられ岩手県は紫波町の「吾妻嶺酒造店」さんにお邪魔してまいりました。南部杜氏の里「石鳥谷」のほど近く、東北自動車道 紫波インターから5分ほどにありました。

お蔵さんの朝は早い。見学する私たちも負けずに早い(^_^; 朝6時仙台出発です。 東北道を北上、岩手に入ると雪がちらほら、インターを降りるとそこは雪国でした。

居間にあがりこたつにあたりながら、東京からいらっしゃっている見学の団体さんと蔵元さんのお話に聞き耳をたてる。しっとりした和風、田舎風の居間にこたつ、窓の外には雪。お茶をいただきのんびり気分かと言えばそれだけでもなく、凛とした張り詰めた空気がある。

「米が蒸しあがりました、では行きましょう。」朝の9時、吾妻嶺の蔵に足を踏み入れた。目の前には蒸気、建屋内にこもる多量の蒸気の中に突進する。これだけの蒸気に囲まれるのは初めての経験。脳内のサイレンが鳴り響き寝ぼけていた頭もシャキ。

「造りは500石ほど、大きくはありません。設備もまだまだで・・」 設備には特別すばらしいところはない。天井や床、お蔵の歴史が影を落とす。「昔はそうとう造っていたようなのですが。」若き蔵元 佐藤元さんは謙虚に語る。

「この界隈でもここは冷えるんですよ。」造りには適しているとはいえ、見学中の私たちの手足には辛い。凍える冷気の中、タンクやヤブタを紹介していただく。タンクの周りには温度調節のマットが巻かれている。
「さほど造っていないので、タンクがじゃまで。引き取ってもらうのにもお金がかかるしね」と笑いながら案内を続ける。

「しぼりにはヤブタと槽を使っています。」一段高いところに備えつけられた槽の大きさ、塊感、重厚さに圧倒される。
「味見してみます? 普通酒ですけど」ヤブタのしぼり口から流れていた酒をいただく。まさに槽口。お蔵でいただく普通酒はなぜか異常に旨い(^_^)

「私もなかなか入れてもらえないんです」という もろみが入ったタンクの部屋の脇には、サーマルタンクが1機。「我が蔵 唯一のサーマルタンクです」と顔がほころぶ。手に入れたときは本当に嬉しかったのだと思う。

私が「吾妻嶺」に出会ったのは去年、絆さんのお酒を楽しむ会でした。その後も絆さんでいただいたり、岩手に行ったときには駅内の酒屋で麺恋チケットにて買い求める(^^; など追いかけてはいました。やがて雑誌などに紹介されるようになり、巷での知名度もあがってきたようす。
ですが、きっと丸秀酒店さんにお話をうかがわなければ「ありがちなニューウェーブ酒。 濃醇旨口、生酒」で終わっていたかもしれません。今回のように機会をいただき、
もう一歩踏み込んだおかげで、違う味、旨みを発見できました。それが私のお酒の楽しみ方、味音痴なりの醍醐味です(笑)

見学も一段落、居間にもどって蔵元さんとお話をする。
「お酒って、コミュニケーションの液体だと思うんです」と佐藤元さん。「人とのつながりを深めるのにお酒はいいと思いますが、それだけではなく、こうやって蔵にきていただける。杜氏、蔵人になによりです。ありがとうございます」。 顔が見える酒屋さんとのお取り引きをしていきたいという蔵元さんと、お客さんと顔が見える距離でお酒を紹介していきたいという酒屋さん。そして、興味を持って遊びに来てくれるのがなによりとのこと。
「毎年仕込みに来る杜氏さんからは『まだ外車も嫁もないのか』と言われますが(笑) 空になった倉庫を見せられるだけでも嬉しいんです。」

「もうかっても外車はいりません、蔵内の設備にまわしたい。床もデコボコだったでしょ」と、謙虚な夢を語る。「最近、皆さんが遊びにきてくださる。蔵人にはやり甲斐になっているようです」

「立ち香じゃなく、口に含んだときの含み香のある、旨みののったお酒を造っていきたい。」 
雄町と八反のできたての純米吟醸をいただく。冷蔵庫から出したてのお酒はまだ少し固いが、すでに旨い(^_^; 搾りたてなのに味がのっている。刀で言えば名もなき野太刀、切れ味ではなく強さで叩き切る。綺麗、洗練ではない。力強いが優しいのが共通した印象。冷えていても派手に旨みを出す雄町。温度が上がるとさすがに垂れ、後味のギス味が強くなるが、飲み手に明確にキャラクタをアピールしてくる。一方、八反はスロースターター。少し温度が上がり酸が出てくると途端に旨くなる。不器用ながらにバランスを保とうとする。のんべばかりのその場では八反に人気が集まった。世の中は「無濾過原酒生」ブーム(らしい)、「来ますね」と心の中で思う私(笑)

お茶受けにいただいた「いぶりがっこ」と「田舎まんじゅう」がやけに旨かった。いぶりがっこはいただき物だそうだけど、田舎まんじゅうはこの辺で普通に食べられているのだとか。「おから」が入っていている。酒にでも合う、まんじゅうはこれしかない(笑)

この界隈に来たら「はらぺこ」に行くべし。 発明おやじのつくる機械打ち蕎麦はかなり旨い。 そんじょそこいらの手打ち蕎麦は逃げ出すしかありません。 十割蕎麦がこんなに滑らかだとは(^_^)
見た目も怪しくグッドです。

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