天明

「教えられません」。曙酒造の蔵主夫婦の奥さんであり醸造責任者でもある鈴木明美さんから私に初めてかけられた言葉。凛とした姿勢、力強くしなやかな信念、それが投影された酒質。 福島県喜多方市より車で30分ほど、会津坂下「曙酒造」にお邪魔してまいりました。
米沢の親愛なる酒のみ集団「米沢日本酒部会」の役員研修会といいますから行かないわけには行きますまい(笑) 米沢でお茶屋さんを営む板坂さんのお誘いを受けるのは2回目。(一回目はこっち)

*その筋*に詳しく、行動力があり、マニアック。それでいてお茶屋の若だんなであり、2人のお子さんの父ちゃん。結局、一言でいえば 愛すべき呑んべ(^_^)
そんな人たちと向かう会津坂下。米沢発7:20。喜多方で朝ラーメンして一路、曙酒造をめざす。

福島の酒ウオッチも入念にしていたつもりだけど、このお蔵さんを初めて知ったのは板坂さん経由。ちょっと悔し、でも嬉しいですね〜 (^_^)

到着して、さっそく蔵座敷に通される。蔵主夫婦とご近所で6年程前からご一緒にお酒を提案・紹介されてきた「五の井商店」さんとお酒を利かせていただく。

米沢日本酒部会のみなさんの雰囲気は大変心地よい。朝ラーでひっかけてきたルービーの酔いではないだろう。理屈じゃない純粋なる呑んべ、理屈じゃないから開けてしまう心(^_^)  愉快。

「教えられません」それは私が酵母をうかがった時にいただいた返事。地元産五百万石にはこだわりが? 使われているお水は? やつぎばやに伺う言葉に奥さんが割って入った・・「スペックではなく造りなんです」。
さほどスペックを気にしない私だが、いつもの癖で間があくと何か喋らなくてはいけないと、ついついうかがってしまった。酒をいただいて間もなく、そんな話をしてしまった私が不粋だった。能書きなど気にせずに、五感で楽しんでほしい。まずそこからでしょ、というやんわりとしたお返事なのだ。奥さんの一本通った姿勢が清々しい。
「お米はなんでも買えるんですが、やはり地元の人にお願いして作っていただいたお米を使っていきたいです」と旦那さん。

「恐縮ですが水だって水道水が元なんです。さらに濾過などはしていますが。この辺は井戸を掘ってもいい水が出ない・・」と続ける。いやこの水、十分美味しいですよ。奥さんのおっしゃっていた「造りで見てください。」という言葉が口に含んだ中硬水とともにしみ入る。

「天明」という名前はここ3〜4年のブランド。「曙」と同じ意味だという。 地元に戻ってきて酒屋を継いで6年になる「五の井商店」の若だんなさんはその頃からのお付き合い。蔵元さんと楽しく当時を語る。「当時は中汲みとか、特に価値がいわれる前だったんですよ。そこをもらいに来る(笑)」「そうそう、本当に旨いところだけもっていく、杜氏の目を盗んで(笑)」「本当の盗み吟醸だ(笑)」と日本酒部会の人がツッこむ。

曙酒造の製品の中にあって「五の井商店」さんのP.B.はとても意味がある。「いろいろ試させていただいているところがあるんですよ」と蔵元さん。確かに今回 利かせていただくお酒「一生青春」「天明」と、五の井さんのP.B.「央」「兎」は互いに補完されている。蔵元さんと酒屋さんのなんともいい関係を見た。

「天明 特別本醸造 無濾過 生原酒」「天明 純米 無濾過生」は絶品。熟成にも耐える旨口の濃い酒、造りがすばらしいのだろう。もう少し爽やかに飲みたいなら「央 純米吟醸無濾過生原酒 中汲み澱からみ」がすばらしい。口中をそよぐ爽風。旨味がふくらみ優しくたなびく。この3種、全て五百万石と自家製アルプス酵母で醸す無濾過生酒だ。正に「造り」を見よ。

ずら〜っと並ぶ見たことのない「天明」の瓶の前で、とりあえずシメの記念写真。あれれ〜っ、何その白衣。みんなマイ白衣を持ってる!! うらやましー(笑)
蔵内の雰囲気は坑道のよう。細長く仕切られているイメージだ。蔵人さんは蔵元御夫婦と地元から4人の計6人とのこと。このシーズンはもう造りが終わっているので4人でやっています。

ああっ、麹蓋発見。聞くところによると大吟醸クラスは麹蓋を使うとのこと。
造りは少し増えたのだそう。「っと言ってもタンクで1本くらいですよ(笑)」650石ほどとのこと。

「この梁の綱は、今 袋を干してますが、私が始めて来た頃から張っているんですよ」とおじいちゃん蔵人さん。
もともとは醤油づくりをしていた醸造所がお酒も造りはじめたという。「蔵の歴史を示す資料は残っていないんですが、梁に書いてある記録からすると築100年ほどにはなります。」「昔は梁は新潟、屋根は会津といわれていたんですよ。これも新潟の大工さんが書いたものです。」

しぼりは全量、槽でしぼります。歴史を感じる槽ですが、内側はステンレス槽にリニューアル。良いです。
冷蔵庫を増築中。見た目はロッジかコテージか。やはり無濾過生原酒は冷蔵庫が命。
お蔵さんの飼い犬かと思ったら、なんとお隣の犬。この形のまま固まったままこちらを凝視(^_^;

最後に全員で記念写真ぱちり。
ブレイク前夜な予感ひしひしのお蔵さんでした。お酒を造る方の姿勢というのはお酒に現れるのですね、とまた一つ発見しました。
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